出雲国風土記・現代語訳:楯縫郡

現代語訳

楯縫郡(たてぬいぐん)

合わせて郷四〔里一十二〕、余戸(あまるべ)一、神戸(かんべ)一。

佐香郷(さか) 今も前のままの字を用いる。

楯縫郷(たてぬい) 今も前のままの字を用いる。

玖潭郷(くたみ) もとの字は忽美。

沼田郷(ぬた) もとの字は努多。

〔以上の四郷は、郷ごとに里三ずつ。〕

餘戸里

神戸里

楯縫と名付けるわけは、神魂命(かみむすひ)がおっしゃられたことには、「わたしの十分に足り整っている天日栖宮(あめのひすみのみや)※1の縦横の規模が、千尋(ちひろ)※2もある長い拷紲(たくなわ)※3を使い、桁梁(けたはり)※4を何回も何回もしっかり結び、たくさん結び下げて作ってあるのと同じように、この天御鳥命(あめのみとり)※5を楯部として天から下しなさった。

そのとき天御鳥命が天から退き下っていらして、大神の宮の御装束としての楯を造り始めなさった場所がここである。それで、今に至るまで楯や桙を造って神々に奉っている。だから楯縫という。

※1 天日栖宮:天津神が住む宮
※2 千尋:長さを表す。とても長いことの喩え
※3 拷紲:楮(こうぞ)の皮で作った強い縄
※4 桁梁:柱を結ぶための部材
※5 天御鳥命:風土記にのみ登場する神。アメノホヒの子、アメノヒナトリという同一視する説がある

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原文

楯縫郡

合郷肆 里一十二餘戸 壹 神戸 壹。

佐香郷 今依前用。

楯縫郷 今依前用。

玖潭郷 本字 忽美。

沼田郷 本字 努多 以上肆 郷別里参。

餘戸里

神戸里

所以號楯縫者、神魂命詔、五十足天日栖宮之縦横御量、千尋栲紲持而、百結結、八十結結下、六十結結下而、此天御量持而、所造天下大神之宮造奉。詔而、御子天之御鳥命、楯部為而、天降給之。爾時、退下来坐而、大神宮御装楯造始給所、是也仍至今、楯・桙造而、奉於皇神等。故云楯縫。

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