出雲国風土記・現代語訳:島根郡

現代語訳

加賀神埼(かかのかんざき)。:松江市島根町加賀の加賀潜戸のある岬

窟(いわや)がある。高さは一十丈ほど、周りは五百二歩ほどある。東と西と北とに貫通している。

いわゆる佐太大神(さだたのおおかみ)がお生まれになった所である。お産まれになろうとするとき、弓矢がなくなった。

そのとき御母である神魂命(かみむすひ)の御子、枳佐加比売命(きさかひめ)が祈願なさったことには、「わたしの御子が麻須羅神(ますらかみ)※1の御子でいらっしゃるならば、なくなった弓矢よ出て来なさい。」と祈願なさった。

そのとき、角の弓矢が水のまにまに流れ出た。そのとき弓を取っておっしゃったことには、「これはあの弓矢ではない。」とおっしゃって投げ捨てられた。また金の弓矢が流れ出てきた。そこで待ち受けてお取りになり、「暗い窟である。」とおっしゃって、射通しなさった。

そこで御母の支佐加比売命の社がここに鎮座していらっしゃる。今の人はこの窟のあたりを通る時は、必ず大声を轟かせて行く。もし密かに行こうとすると、神が現われて突風が起こり、行く船は必ず転覆するのである。

御島(み)。:松江市島根町加賀の加賀漁港付近の半島

周りは二百八十歩、高さは一十丈ある。中は東西に貫通している。〔松・栢・椿がある。〕

葛島(かつら)。:松江市島根町加賀の沖の桂島

周りは一里一百一十歩、高さは五丈ある。〔椿・松・小竹・茅・葦がある。〕

櫛島(くし)。:松江市島根町加賀の桂島の東方にある櫛島

周りは二百三十歩、高さは一十丈ある。〔松林がある。〕

許意島(こい)。:松江市島根町加賀の桂島の西北方にある栗島

周りは八十歩、高さは一十丈ある。〔松林・茅・沢がある。〕

真島(ま)。:松江市島根町加賀の桂島の西北方にある馬島

周りは一百八十歩、高さは一十丈ある。〔松林がある。〕

比羅島(ひら)。:松江市島根町加賀の桂島の西方にある平島

〔紫菜・海藻が生えている。〕

黒島(くろ)。

〔前に同じ。〕

名島(な)。

周りは一百八十歩、高さは九丈ある。〔松がある。〕

※1 麻須羅神:勇敢な男神を意味する。記紀には登場しない神

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原文

加賀神埼 即有窟。高一十丈許。周五百二歩。東・西・北通。

所謂佐太大神之所産生處也。所産生臨時、弓箭亡坐。爾時、御祖神神魂命之御子、枳佐加比比賣命願、吾御子、麻須羅神御子坐者、所亡弓箭出来、願坐。爾時、角弓箭、随水流出。爾時、取之、詔子、此者非弓箭、詔而、擲廃給。又金弓箭流出来。即待取之坐而、闇鬱窟哉、詔而、射通坐。即、御祖支佐加地比賣命社坐此處。今人、是窟邊行時、必聲磅?而行。若密行者、神現而飄風起、行船者必覆。

御嶋 周二百八十歩、高一十丈。中通東西。〔有松・栢・椿。〕

葛嶋 周一里一百一十歩。高五丈。〔有椿・松・小竹・葦・茅。〕

櫛嶋 周二百三十歩。高一十丈。〔有松林。〕

許意嶋 周八十歩。高一十丈。〔有茅・澤・松林。〕

真島 周一百八十歩。高一十丈。〔有松。〕

比羅嶋 〔生紫菜・海藻。〕

黒嶋 〔同前。〕

名嶋 周一百八十歩。高九丈。〔有松。〕

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