出雲国風土記・現代語訳:飯石郡

現代語訳

熊谷郷(くまたにごう)。:雲南市三刀屋町の上熊谷・下熊谷・木次町上熊谷・下熊谷付近の地域

郡家の東北二十六里の所にある。古老が伝えて言うには、久志伊奈太美等与麻奴良比売命(くしいなだみとよまぬらひめ)※1が、妊娠して出産しようとなさるときに、生む所をお求めになった。そのときに此処に来ておっしゃられたことには、「とても奥深い谷である。」とおっしゃられた。だから、熊谷という。

三屋郷(みとやごう)。:雲南市三刀屋中部から北部にかけての地域

郡家の東北二十四里の所にある。所造天下大神(あめのしたつくらししおおかみ)の御門が此処にある。だから、三刀矢(みとや)という。〔神亀三年に字を三刀屋と改めた。〕この郷には、正倉がある。

飯石郷(いいしごう)。:雲南市三刀屋町の久和・中野・神代・六重・吉田町川手付近の地域

郡家の正東一十七里の所にある。伊毘志都弊命(いびしつべ)が天からお降りになったところである。だから、伊鼻志(いびし)という。〔神亀三年に字を飯石と改めた。〕

多禰郷(たねごう)。:雲南市三刀屋町の乙加宮・坂本・須所・掛合町多根・松笠・掛合・吉田町吉田付近の地域

郡家に属する。所造天下大神である大穴持命(おおなむち)と須久奈比古命(すくなひこ)※2が天下をお巡りになったときに、稲種をここに落とされた。だから、種(たね)という。〔神亀三年に字を多禰と改めた。〕

須佐郷(すさごう)。:出雲市佐田町反辺・須佐・朝原・原田・大呂・雲南市掛合町穴見・入間付近の地域

郡家の正西一十九里の所にある。神須佐能袁命(かんすさのお)がおっしゃられたことには、「この国は小さい国だが、国として良いところである。だから私の名前は、木や石にはつけまい。」とおっしゃられて、御自分の御魂をここに鎮め置かれた。そして大須佐田(おおすさだ)・小須佐田(おすさだ)をお定めになった。だから、須佐という。この郷には正倉がある。

波多郷(はたごう)。:雲南市掛合町波多・飯石郡飯南町獅子・八神・志津見・角井付近の地域

郡家の西南一十九里の所にある。波多都美命(はたつみ)※3が天からお降りになったところである。だから、波多という。

来島郷(きじまごう)。:飯石郡飯南町東南部、頓原を中心とした地域

郡家の正南四十一里の所にある。伎自麻都美命(きじまつみ)※4が鎮座していらっしゃる。だから支自真(きじま)という。〔神亀三年に字を来嶋と改めた。〕この郷には正倉がある。

※1 久志伊奈太美等与麻奴良比売命:スサノオの后。「記紀」では櫛名田比売・奇稲田姫とも
※2 須久奈比古命:大国主と共に国造りをしたとされる神。「記紀」では少名毘古那・少彦名とも
※3 波多都美命:風土記固有の神。天降ったとあることから天津神と思われる。波多の守り神とされる
※4 伎自麻都美命:風土記固有の神。伎自麻の守り神とされる

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原文

熊谷郷 郡家東北廿六里。古老傳云、久志伊奈太美等與麻奴良比賣命、任身及将産時、求處生之。爾時、到来此處、詔、甚久々麻々志枳谷在、詔也。故云熊谷。

三屋郷 郡家東北廿四里。所造天下大神之御門、即在此處。故云三刀矢。〔神亀三年、改字三屋。〕即在正倉。

飯石郷 郡家正東一十二里。伊毘志都幣命、天降坐處。故云伊鼻志。〔神亀三年、改字飯石。〕

多禰郷 属郡家。所造天下大神大穴持命、與須久奈比古命、巡行天下時、稲種堕此處。故云種。〔神亀三年、改字多禰。〕

須佐郷 郡家正西一十九里。神須佐能袁命詔、此國者雖小國、國處在。故我御名者、非着木石。詔而、即己命之御魂、鎮置給之。然即、大須佐田・小須佐田定給。故云須佐。即有正倉。

波多郷 郡家西南一十九里。波多須美命天降坐家有。故云波多。

来嶋郷 郡家正南卅一里。伎自麻都美命坐。故云支自真。〔神亀三年、改字来嶋。〕即有正倉。

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