出雲国風土記・現代語訳:神門郡

現代語訳

田俣山(たまた)。:出雲市乙立町、佐田町朝原、所原町の境にある王院山

郡家の正南一十九里の所にある。〔檜・杉がある。〕

長柄山(ながら)。:出雲市見々久町の弓掛山

郡家の東南一十九里の所にある。〔檜・杉がある。〕

吉栗山(よしくり)。:出雲市佐田町一窪田の栗原付近の山

郡家の西南二十八里の所にある。〔檜・杉がある。いわゆる所造天下大神の宮(出雲大社)の建材の材木を造る山である。〕

宇比多伎山(ういたき)。:出雲市所原町の朝山神社の建つ山

郡家の東南五里五十六歩の所にある。〔大神の御屋(みや)である。〕

稲積山(いなづみ)。:出雲市朝山町の杉尾神社がある岡

郡家の東南五里七十六歩の所にある。〔大神の稲積(収穫した稲を積んだもの)である。〕

陰山(かげ)。:宇比多伎山東方の北端にある山(岩根寺がある)

郡家の東南五里八十六歩の所にある。〔大神の御陰(みかげ)である。〕

稲山(いね)。:岩根寺の対岸にある山

郡家の正東五里一百一十六歩の所にある。〔東に樹木がある。ほかの三方は磯である。大神の御稲である。〕

冠山(かがふり)。:陰山、牟山南方の山

郡家の東南五里二百五十六歩の所にある。〔大神の御冠(みかがふり)である。〕

およそ、すべての山野にある草木は、

・白歛(やまかがみ)
・桔梗(ありのひふき)
・藍漆(やまあい)
・竜胆(えやみぐさ)
・商陸(いおずき)
・続断(おにのやがら)
・独活(うど)
・白芷(かさもち)
・秦椒(かわはじかみ)
・百部根(ほとづら)
・百合(ゆり)
・巻柏(いわくみ)
・石斛(いわぐすり)
・升麻(とりのあしくさ)
・当帰(やまぜり)
・石葦(いわくさ)
・麦門冬(やますげ)
・杜仲(はいまゆみ)
・細辛(みらのねぐさ)
・伏令(まつほど)
・葛根(くずのね)
・薇蕨(わらび)
・藤(ふじ)
・李(すもも)
・蜀椒(なるはじかみ)
・檜(ひ)
・杉
・榧(かえ)
・赤桐(あかぎり)
・白桐(きり)
・椿(つばき)
・槻(つき)
・柘(つみ)
・楡(にれ)
・蘗(きはだ)
・楮(かじ)。

鳥獣は、

・鵰(わし)
・鷹(たか)
・晨風(はやぶさ)
・鳩(はと)
・山鶏(やまどり)
・鶉(うずら)
・熊(くま)
・狼(おおかみ)
・猪(い)
・鹿(しか)
・兎(うさぎ)
・狐(きつね)
・獼猴(さる)
・飛鼯(むささび)

である。

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原文

田俣山 郡家正南一十九里。〔有檜・杉。〕

長柄山 郡家東南一十九里。〔有檜・杉。〕

吉栗山 郡家西南二十八里。〔有檜・杉也、所謂所造、天下大神宮材造山也。〕

宇比多伎山 郡家東南五里五十六歩。〔大神之御屋。〕

稲積山 郡家東南五里七十六歩。〔大神之稲積。〕

陰山 郡家東南五里八十六歩。〔大神之御陰。〕

稲山 郡家東南五里一百十六歩。〔東在樹林。三方並、礒也、大神之御稲。〕

桙山 郡家東南五里二百五十六歩。〔南・西並在樹林、東・北並礒也、大神之御桙。〕

冠山 郡家東南五里二百五十六歩。〔大神之御冠。〕

凡諸山野所在草木、白蘞・桔梗・藍漆・龍膽・商陸・續断・独活・白芷・秦椒・百部根・百合・巻柏・石斛・升麻・当帰・石葦・麦門冬・杜仲・細辛・茯苓・葛根・薇蕨・藤・李・蜀椒・檜・杉・榧・赤桐・白桐・椿・槻・柘・楡・蘗・楮。

禽獣、鵰・鷹・晨風・鳩・山雞・鶉・熊・猪・狼・鹿・兎・狐・獼猴・飛鼯也。

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