出雲国風土記・現代語訳:仁多郡

現代語訳

鳥上山(とりかみ)。:仁多郡奥出雲町東堺の船通山

郡家の東南三十五里の所にある。〔伯耆(ほうき)と出雲の堺にある。塩味葛(えびかづら)がある。〕

室原山(むろはら)。:仁多郡奥出雲町東南の堺の三国山

郡家の東南三十六里の所にある。〔備後(びんご)と出雲の二国の堺にある。塩味葛がある。〕

灰火山(はいひ)。:仁多郡奥出雲町大馬木の仏山

郡家の東南三十里の所にある。

遊託山(ゆた)。:仁多郡奥出雲町南堺の烏帽子山

郡家の西南三十七里の所にある。〔塩味葛がある。〕

御坂山(みさか)。:仁多郡奥出雲町南堺の猿政山

郡家の西南五十三里の所にある。この山に神御門(かみのみと)がある。だから御坂という。〔備後と出雲の堺にある。塩味葛がある。〕

志努坂野(しぬさか)。:仁多郡奥出雲町西南の鯛巣山

郡家の西南三十一里の所にある。〔紫草(むらさき)が少しある。〕

玉峯山(たまみね)。:仁多郡奥出雲町北堺の玉峯山

郡家の東南一十里の所にある。古老が伝えて言うには、「山の嶺に玉上神(たまのへの)がいらっしゃる。だから、玉峯という。」

城継野(きづな)。:仁多郡奥出雲町横田、八川付近の山

郡家の正南一十里の所にある。〔紫草が少しある。〕

大内野(おおち)。:仁多郡奥出雲町郡大内北方の山

郡家の正南二里の所にある。〔紫草が少しある。〕

菅火野(すがひ)。:仁多郡奥出雲町三所東方の城山(須我非山)

郡家の正西四里の所にある。高さは一百二十五丈、周りは一十里ある。〔峯には神社(須我乃非社)がある。〕

恋山(したい)。:仁多郡奥出雲町三成にある鬼の舌震のある山とされる

郡家の正南二十三里の所にある。古老が伝えて言うには、和爾(わに)が阿伊村(あいむら)にいらっしゃる神、玉日女命(たまひめ)を恋い慕って、川を上ってやってきた。そのとき、玉日女命が石で川を塞いでしまわれたので、会うことができないまま慕っていた。だから、恋山という。

およそ、全ての山野にある草木は、

・白頭公(おきなぐさ)
・藍漆(やまあい)
・高本(さわそらし)
・玄参(おしくさ)
・百合(ゆり)
・王不留行(かさくさ)
・薺尼(さきくさな)
・百部根(ほとづら)
・瞿麦(なでしこ)
・升麻(とりのあしくさ)
・抜葜(さるとり)
・黄精(おおえみ)
・地楡(あやのたむ)
・附子(ぶし)
・狼牙(こまつなぎ)
・離留(りる)
・石斛(いわぐすり)
・貫衆(おにわらび)
・続断(おにのやがら)
・女委(えみくさ)
・藤(ふじ)
・李(すもも)
・檜(ひ)
・椙(すぎ)
・樫(かし)
・松(まつ)
・栢(かえ)
・栗(くり)
・柘(つみ)
・槻(つき)
・蘗(きはだ)
・楮(かじ)。

鳥獣は、

・鷹(たか)
・晨風(はやぶさ)
・鳩(はと)
・山鶏(やまどり)
・雉(きじ)
・熊(くま)
・狼(おおかみ)
・猪(い)
・鹿(しか)
・狐(きつね)
・兎(うさぎ)
・獼猴(さる)
・飛鼯(むささび)

がいる。

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原文

鳥上山 郡家東南卅五里。〔伯耆與出雲之堺、有塩味葛。〕

室原山 郡家東南卅六里。〔備後與出雲二國之堺、有塩味葛。〕

灰火山 郡家東南卅里。

遊託山 郡家正南卅七里。〔有塩味葛。〕

御坂山 郡家西南五十三里。即此山有神御門。故云御坂。〔備後與出雲之堺、有塩味葛。〕

志努坂野 郡家西南卅一里。〔有紫草少々。〕

玉峯山 郡家東南一十里。古老傳云、山嶺在玉上神上。故云玉峯。

城紲野 郡家正南一十里。〔有紫草少々。〕

大内野 郡家正南廿二里。〔有紫草少々。〕

菅火野 郡家正西四里。高一百二十五丈。周一十里。〔峯有神社。〕

戀山 郡家正南二十三里。古老傳云、和爾、戀阿伊村坐神玉日女命而、上到。爾時、玉日女命以石塞川、不得會所戀。上故、云戀山。

凡諸山野所在草木、白頭公・藍漆・藁本・玄参・百合・王不留行・薺尼・百部根・瞿麦・升麻・抜葜・黄精・地楡・附子・狼牙・離留・石斛・貫衆・續断・女委・藤・李・檜・椙・樫・松・栢・栗・柘・槻・蘗・楮。

禽獣、則有鷹・晨風・鳩・山雞・雉・熊・狼・猪・鹿・狐・兎・獼猴・飛鼯。

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